李朝といえば約500年もの驚くべき長い間続いた時代の事を言う。それに加えてこの時代に人々が使用した生活用具や工芸品の事を含め、総括して李朝といわれている事もあるようだ。
 李朝時代の家具といえば木材が主となっているのだが、紙で作られた家具もあり一閑張りや紙縒り細工で仕上げられたものも見られる。そして日本の建築様式とは異なり押入れがなかったので、おのずと物を収納する為に箪笥などの家具が必要となった。家具の種類もかなり多く、ほとんどの家具に足が付いているのが特長と言える。これは、床暖房(オンドル)の熱を避けることを考慮したためであった。
 写真の家具は竹あるいは木材で骨組みし、その内と外に紙を貼って行く方法で作られているのだが、紙では作られたとは思えないほどの重厚さや木と同じ様な温もりを感じさせる。そのうえに、左右のゆるやかな曲線の反り具合などがデザイン的にも実に見事というほかはない。素材や寸法等、細かい所まで注意が行き届き、手落ちがないように作る日本の様式とは全く異なる特殊性が魅力と言えるかもしれない。でもいいかげんでなく、欲心というものもなく、自然のはからいのままの境地で作り出されているのは儒教という素地があったからなのだろう。おおらかでのびやかな職人の心が表れ、見る人の気持ちを自由に解き放してくれる。おだやかな自然のたたずまいを見せながらも、何食わぬ顔をして王者の如く鎮座しているのも興味をそそられる。
 ところで、型染で人間国宝だった芹沢けい介氏が所有しておられたこの家具を当資料館の創立者が是非にとお願いし、快く譲ってくださったのが27年前。一つの家具を通して二人のそれぞれの思いが通い合った家具でもある。
(棚の上の鳥は奠雁(チョナン)婚礼用として使われたもの。)