和装本が生まれたのは何時の頃なのか、はっきりとした説はないのだが古くは巻物から経典へ蛇腹(じゃばら)折の折本へと発展して和装本とした形になったらしい。少なくとも平安時代にはあったという。そういう歴史をふまえてここに載せてある書物を何点か紹介したい。
 まず、中央にある書物は朝鮮の物で産物の出来高等の記録書のように思われる。中心が白いのは本自体に虫除けの加工がしてあるのだが、たまたま中まで染料が染み込まず、その結果模様となった。偶然のなせる業といえよう。文字も几帳面に細かく整然と書かれ、後で間違いのないよう朱で確認のしるしがしてあって何とも、ほほえましい。その右下の『庭訓往来』(ていきんおうらい)は室町初期に出来た教養本で、当資料館にあるのは安政二年のもの。寺子屋などで教科書代わりに使われ、衣食住等に関する事柄を十二ヶ月に分けた書簡形式の文で明快に書いてあり挿絵が彩りも鮮やかで楽しい。また紙一枚を版木一枚で彫るので筆で書いた如く流れるように美しく摺られている。
 ところで、当資料館は浄土真宗を信心し仏法を喜ぶ土地柄にある。その意味もふくめて親鸞聖人行状記と和讃も載せた。(図左上)特に和讃の文字は健康的な力強さがあって誰にもわかりやすく、襟を正して向かう事の出来る格調の高さがこの文字に見えてくる。厚手のしっかりした紙には、銀加工が用いてあり黒々とした文字が一層映える。
 さて、写真の書物を手にとって見ると思った以上に軽いのに驚く。紙の手触りが良いのは勿論のこと、一枚(一丁という)めくるごとにしっとり手にそって納まる。たとえぞんざいに扱っても押しをすれば直る。綴じ糸が切れたら繕える。そこにはもの づくりに励む仕事の心構えの原点があるように感じる。そして楮などの保存に優れた和紙は書物となり長い年月に耐え、又書物を大切に扱う昔の人達がいて、日本は世界でまれに見る古書の多い国となったことも知った。その数冊が今、手元にある。相手がたとえ書物であっても身近に深くかかわってくる一期一会、感慨深い。

図右上:詩経  紀元前7世紀の頃生まれた中国最古の詩集(新たに摺ったもの)
図左下:小野篁歌集  平安時代の歌人 遣隋使小野妹子の子孫