紙布は織物の一つで、紙を細く切り、撚った紙糸で織った布のことを言います。江戸時代の頃、木綿が手に入りにくい紙の産地で主に作られていました。
経糸たていと緯糸よこいと共に紙糸を用いたものが諸紙布もろしふ経糸たていとに絹・綿を用いたものが絹紙布、綿紙布と呼ばれています。
紙布は木綿と同じように保温性や適度な吸湿性と通気性を兼ね備えているので肌触りの良い衣類となり、しかも紙製でありながら洗濯も出来るほど耐久性に優れているのが特長です。

写真の野良着は厳しい自然環境と過酷な労働に耐えられるように作られたもので綿と紙糸で織られていています。これが東北の物と知った時、その地方の特性や気質が一つになって独特の物を生み出すエネルギーを感じたのを今でもはっきりと覚えています。

野良着といえば粗野な感じに受けとりがちですが、働きやすさを考えた機能的な形や丈夫さがあって実に健康的です。洗うと美しさが増す藍染(藍には殺菌、防虫の作用あり)が割合に多く、紺無地や縞模様等も見られます。着込んでいくことによって身体に馴染み風合いもよくなる野良着。ほころびた所は、端切れのあて布で一針一針縫って繕いをする。そこには物と人との深いつながり親愛の情さえ感じます。

紙布になるまでにはまず、紙の上下を少し残して細く切って行きます。少し湿らせて硬い石の上で揉み、糸状にしてから繋ぎの部分を離し、よりをかけ、染めてから織り上げます。
材料となる紙糸は本来の役目を終えた古紙で、その一片も無駄にせず使いきるのは貧しさゆえでしょうが、それ以上に物をいとおしむ気持ちの表れだと思うのです。
野良着は農民にとってはかけがえのない衣料なのです。

紙布の野良着に惹かれるのは、あくまでも普段の生活の品で華やかさは何もないけれど人々が額に汗する労働の喜びや苦しみなどに寄り添って、貧しい暮らしを温めていく清貧の徳というものを感じとれるからだと思っています。