サイズ29cm×39cm
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日本のお札は魔除け、願掛けなど多種多様にあります。今回紹介するものは中でも個性的なもので、現実をしっかり直視する眼力が鋭く近寄りがたい程の威厳をもった恵比寿・大黒です。

まず私達が身近に感じている恵比寿と大黒とは。
恵比寿は七福神の中でただ一人の日本の神様で、左脇に鯛を抱え右手に釣竿を持っています。釣竿は「 () りして (こう) せず」と論語にもあるように暴利を求めない節度ある心を表しているので、漁業と商売繁盛の神として信仰されています。
かたや大黒天はインドのシバ(破壊の神)の化身でサンスクリット語ではマハーカーラと言い、「大と黒」を意味します。日本には最澄がもたらし、寺の守護神となりますが、やがて庶民にも広がると台所の神様に変わっていきました。昔から日本では 大国主(おおくにぬし) 神の信仰があり「大国」と「大黒」が同じ「だいこく」と言われている事から一体視され、頭巾をかぶり大きな袋を担ぎ、やがて米俵の上で打ち出の木槌を手にした大黒様になり、五穀豊穣をつかさどる農業の神として慕われるようになりました。
すでに室町時代から、家に木彫りや絵画の恵比寿と大黒を並べて祭る習慣が出来ていたとの事ですから、時々見かける 煤け(すすけ) たものも時間と言う味なのかもしれません。
さて今回のお札の恵比寿・大黒の魅力は造形の面白さと発想の奇抜さに尽きます。版木自体が大胆に構成してあり、線は骨太でありながら躍動しています。一体誰が下絵を描き、彫り、摺ったのか…老僧か宮大工かそれとも仏師なのか、色々想像が膨らみます。
新しく摺られたお札には霊力が宿り人の心を惹きつけると言われており、紙は神に通ずると言う言葉もあながち不自然ではありません。和紙の白さに清浄な心を見出し、木版刷りにしてその上に朱印を押す。墨の黒、印の朱、和紙の上でそれぞれの色が引き立て合い、特に墨の力強さや、掠れ等は手摺りならではの美しさです。
このお札には一途な願いは勿論の事、醜さや哀れさも分け隔てなく全部包み込んでくれる大きな強さがあります。その結果、何百年の祈りが滲みこんだ人生の縮図のように見えてきて惹かれてしまうのです。

*注  お札は名古屋の大徳院で摺られたもの。江戸時代の版木は残っているそうですが 現在は印刷になっているとの事。