福果善根
(サイズ160cm×187cm)
この間仕切りは蚕を飼っている部屋の温度調節用として作られたものである。
はじめてこれを手にしたときにカーテンのようなものだと思ったものの、はたしてそれが何の為に作られた物か分からなかった。
色々調べて行くうちに蚕を飼育する為には湿度と温度が重要で、その為に作られたようである。伝統的な養蚕は自然の温度で飼育していたが、幕末には人工的に湿度と温度を管理して効果的に飼育しようと試みられ何と温度計まで作ったというのには驚いた。そして暖房には火鉢などが使われており、間仕切りで広い部屋を区切り、開けたり閉めたりして温度や湿度を調節した。



間仕切りは使用済みの和紙を何枚も糊で貼り合わせ、しっかりとした厚さにする。後でジャバラにして上から吊るす為、何箇所かに紐をくくり付ける。といった順序で作られている。この作り手は想像するに、たまたま渋があったのでそれを塗ろうとした。が、ほんの僅かしかなかったので、渋を無駄なく塗ろうと刷毛で一気に塗ったに違いない。始めはたっぷりと刷毛に含んでいた渋がだんだん薄くなってしまった。全体を見ると意外に濃淡が良い調子になり一つの模様となっている。又刷毛の力強さがなんとも言えず、それでいて飾り気のなさも面白い。これなら自分にでも出来るかもしれないと思わせる物の様な気がする。紙は大倉山の地図、新潟県監獄史の名簿など多種多様な古文書が使ってある。

福果善根
(間仕切りの一部分)
さて、先日京都の骨董市の出店で紙の間仕切りが隅に置いてあるのを見た。店主にいろいろ尋ねると「何に使ったって?はっきり分からんけど。昔は和紙は貴重品やで、無駄にせんと何でも作ったんや。加工しやすいやろ。多分風がこんようにして作業する時に使ったぐらいしか言えんな。値段か?5万にしとくで」とあっさり言われてしまった。