雑誌『工藝』は今から79年前、柳宗悦によって月刊誌として創刊された。その本には型染−芹沢_介。版画−棟方志功。焼物−浜田庄司、河井寛次郎、富本憲吉。 漆−鈴木繁男等、工藝界を代表する人達が参加した。又著者、印刷者、製紙者、製本者がそれぞれの手法にこだわり、中の紙も大部分が手漉きの和紙を使い、一般の本と価値観が全く異なるもので出版界では類を見ないものだった。何と贅沢な作りだった事かと驚く。
表紙にもそれぞれ手織りの布、漆、版画、型染等をじつにうまく使い美しく装ってあるので読者は毎回、誰の手による装丁か?期待に胸を膨らませ手に取りじっくり眺め、手触りやデザインを楽しめる。また、手におさまる大きさも心地よく、作者のぬくもりがじかに伝わって来て満ち足りた気持ちになったと思う。そういえば身近に1人そんな人がいたのをおぼえている。その人はお酒が入るとニコニコしながら「実に立派な本でね。もう二度とのあのような本は僕が生きている間には作れないだろうなあ。本を手に入れた時から嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。柳先生にじかに会えた気持ちになれたからね。」と話してくれた。
さて『工藝』は柳宗悦を中心には毎月テーマ(例えば手仕事について等)を決め、整然とした理論で語ってあり、所々の挿絵の配置も心憎い。特に工藝の第1号は「民芸とは何か」の題目で丁寧に掘り下げて述べてあり柳宗悦の強い意気込みが感じられる。若い人にも民芸が受け入れられている現代と違い、その時代には特異の目をもって見られていたのだろう。だからこそ手仕事に携わる名もなき職人の為に「民芸は易行道である。自然な材料、無理のない工程、素直な心、簡単な構造、当たり前の人間、それだけでいいのである。私達はこの平凡な条件を傷つけない社会を欲する。」と述べている。この文章が職人達をどれ程勇気づけたことだろう。「よき本は読者に幸せと夢を与える」と聞いたことがあるが-『工藝』はまさにそれで戦争をはさんで幾度か絶版の危機にあったにもかかわらず120号まで続いた。この本『工藝』を手に取るたびに工藝品そのものであるとしみじみ思う。